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 この映画の主人公であるマーク・ランディスは30年もの間美術館に自分が制作した贋作の美術品を寄贈し続けた男である。美術館は作品寄贈の問い合わせに喜んで応じ、まんまと彼の手玉に取られてしまったという話である。最終的に彼は彼自身の大規模な個展を開催するに至るのだが、それによって彼の行為の本質が損なわれてしまったのではないかと私は思う。

 一般的に美術(=アート)は「自由なもの」と捉えられることが多い。60年代以降に現れた前衛運動の受容などを鑑みるとまさに当時は「自由奔放な若者の反抗」などと捉えられ、「私たちにはわからない」といったものが社会からの彼らへのまなざしには含まれていた。現在は当時よりいくぶんか美術館やアートギャラリーがポピュラーな場所になり、美術史の基礎知識のない人も美術に興味を持ったり、作品を鑑賞したりする機会が増えている。それは美術館が徐々に開かれた存在になっていたからである。しかし、そうなっているとしてもその傾向はほとんど変わらないだろう。むしろ「わからない(あらゆるルールから自由である)」ことが一つの芸術の見方として支配的な力を持っている。

 しかし、この映画によってまず暴露されるのは、美術品を扱う現場である美術館がいかに地域の事情や経済から自由でないかということである。経済難により、収蔵作品のほとんどを寄贈に頼っている美術館がこの映画の中では登場してくる。そのような苦しい状況にあえぐ学芸員の姿は自由という言葉からはほど遠い。絵画や彫刻、インスタレーションといったさまざまな形態をした大量の作品や資料を分類、管理、収蔵しながら展覧会を運営するには多くの人手が必要になる(たとえば兵庫県立美術館の収蔵作品数は約9,000点にも及び、それを管理する苦労を想像すればわかるだろう)。劇中にも登場してくるような展覧会企画担当と収蔵作品の管理担当を兼任しなければならない数の学芸員しかいない美術館が多くある中で、理想的な作品の管理が可能な美術館というのは実は限られているのである。

 教科書的にいうと、美術館には大きく3つの存在意義があると言われている。それは「展覧会」、「保存収集」、「教育」だ。まず私たちが美術館に足を運ぶ多くの機会は「展覧会」である。また、時折開催されるワークショップや学校のギャラリーツアーなどがいわゆる「教育」である。そして問題の「保存収集」なのだが、これは外部の人には見ることのできない美術の現場である。実は、展覧会でお目見えする作品はいわゆる氷山の一角でしかなく、多くの作品や資料は収蔵庫に眠っているのである。美術館によっては、展覧会の内容がコレクション(収蔵作品)によって構成される場合もあれば、現代の美術の動向をリアルタイムで伝えるために、収蔵品ではなく他館から借り受けた作品を展示する場合も多い。ここで考えられるのは、ランディスの作品は、学芸員の目をかいくぐって収蔵庫に収蔵されてしまったとしても、展覧会にお目見えする確率は意外に低かったのではないかということである。ランディスが批判をしたのは美術鑑賞のために美術館を訪れる観者ではなく、美術館の内部に居る学芸員、ひいては美術制度自体に対してであったように思われる。それを表に引っ張り出して、ランディスを一人のアーティストとして祭り上げ、展覧会を開催してしまうとなると、むしろランディス自身は、批判していた美術制度の中心に足を踏み入れなければならないのである。もちろん制度批判というものは独りよがりでは成立しないにせよ、それはこの映画が製作されれば十分である。

 おそらくそんなことは、すでにランディスの個展を企画した学芸員はわかっていただろう。むしろ、ランディスを美術制度の中心に巻き込むことで、ランディスの制度批判を無効化させようとしている。そういった文脈であの展覧会を考える方が容易に納得できる。つまりあの展覧会はランディスのデビューを言祝ぐものであるように見せかけて、まさに血を血で洗うような美術の制度批判をめぐる戦いなのである。究極をいうと本当に美術が「自由」ならばランディスの行為も美術として許されるのである。結局その自由は最終的に展覧会によって阻止されてしまった。結局は美術という作品管理制度がある限りそれは不可能なのである。

この映画を見る人には、ぜひこの監督が行っている恣意的なランディスのスター化の手法にも注目してほしい。監督がランディスと学芸員のどちらの立場に立って映画を製作したかを考えながら見ることをオススメします。

そしてもし、ランディスがこのように有名にならずに、贋作が収蔵庫に眠り続けていたとしたら…むしろランディスよりも巧妙な贋作の制作者が今も作品を作り続けているとしたら…目の前にある作品が贋作だったら…そんなことを想像しながら、また美術館を訪れてみると、全く異なる体験ができるに違いありません。

『美術館を手玉に取った男』は3/26から上映です。


(とは言っても、実際に自分の働く美術館にランディスみたいな輩がきたらめちゃくちゃ迷惑ですけどね…)


(舘)

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