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『わが友イワン・ラプシン』
1984年|ソ連|98分|35mm
原作:ユーリー・ゲルマン「ラプシン」
出演:アンドレイ・ボルトネフ、ニーナ・ルスラーノワ、アンドレイ・ミローノフ


german_iwan_1.jpg

『わが友イワン・ラプシン』は監督アレクセイ・ゲルマンの長編3作目で
1984年に製作されました。

舞台は1935年ソ連の大河沿いにある小さな町。
主人公の刑事イワン・ラプシンは警察官舎に仲間数人と住んでいて、
その仲間の息子(当時9歳)がそれから50年経って当時を懐かしく回想するという
形式で物語は始まります(何カ所かカラー場面がありゲルマンはそこ以外モノクロ)。

ゲルマン監督は寡作で1938年にソ連に生まれて
最近2013年に没した生涯に単独監督作は5つしかありません。
74歳まで生きて1964年には映画界に入っているので
平均して約10年に1作品の超スローペースです。

もっと寡作のヴィクトル・エリセは長編は3作品ですが
『ミツバチのささやき』と『エル・スール』は不滅です。

ゲルマンもたかだか全5作品(『道中の点検』『戦争のない20日間』
『わが友イワン・ラプシン』『フルスタリョフ、車を!』『神々のたそがれ』)
なので是非この機会にコンプリートしてほしいです。

急ぎ付け足すと繰り返し観てやっと良さが分かって来るというような
鑑賞も超スローペースな 作品なんですが。

以下その良さを『ラプシン』を中心に少しだけ説明してみます。
(ストーリーには触れていません)

german_iwan_3.jpg

『ラプシン』には複雑なストーリーはないのに(多分ないからこそ)
パッと観てスッとは頭に入ってくれない。
日本人に親しみがわく風物や気候がこのロシアの映画には少ないからでしょうか。

しかしよく見ていると少しずつ慣れてきて人物や風景にも親しみがわくようになってきます。
道ひとつ建物ひとつ家具ひとつ昔の質朴な風情があって
行ったこともないのに懐かしいなあと。

しかもそれらの生活がしみ込んだ決して美的ではない被写体がとても美しく映っている。
モノクロの陰翳が特に美しいです。

ゲルマン作品の大きな特徴として時代考証を厳密にしてから
カメラに撮るということがあるので無造作に見える背景にも凝っているんでしょう。
昔のソ連の映画や小説とゲルマン作品を比べるのも面白いかもしれません。

『ラプシン』はゲルマンのフィルモグラフィーでちょうど真ん中の作品
(前に2作品、後に2作品)にあたります。
前の2作品はラプシン風なのに反して後の2作品はそれとは大きく違い
フルスタリョフ風なんだと思います。

german_iwan_2.jpg

この違いのワケをその間にあった出来事に求めると
すぐ思い付くのはゲルマンの故国であるソ連崩壊(1991年)です。
ソ連崩壊の影響を後期2作品の作風に探すのも安易な気もしますが
その辺りゲルマン自身はどうだったのか気になります。
『フルスタリョフ、車を!』はスターリンが死んだ時に側近ベリヤが発した言葉で、
スターリンの死とソ連崩壊は同じではないですが結びつきますし、
『神々のたそがれ」』は架空の設定ながら
大義が崩壊した後の混乱を大時代的に描いたとも言えます。

前期3作品はロシア革命後の世界、後期2作品はソ連崩壊後の世界。
しかしゲルマンの映画ではそのような歴史的出来事が直接感じられることはなく
歴史の脇道にあるような小さな出来事をフィクションとしてですが リアルに撮っています。
リアルといってもシリアスなことだけではなくて『ラプシン』劇中に何度か歌われる
プロレタリ(ロシア語で人名とスパシーバ以外で分かった言葉)の歌を
主要人物たちが一緒に歌っているシーンは微笑ましく愉快です。
2回、3回と観て初見では期待で大き過ぎたゲルマンの世界が
人間のサイズになった感じがしました。

特に新作『神々のたそがれ』には注意が必要です。
キャッチコピーや予告で空前絶後やらこれを観ずして映画を語るな的
大仰な言葉が踊っています。

見ないうちからそんなに構えていると
ゲルマンならずとも映画の良さはスルリとどっかへ行ってしまいます。

映画館に入ってただ見るということが
ゲルマンのような映画を楽しむには特に必要なんだなと実感しました。

情報を駆使すればゲルマン作品を解剖できるのでしょうがほどほどにして
まずは映画館で素朴に楽しみたいです。

そしてできれば製作年代順に『道中の点検』『戦争のない20日間』
『わが友イワン・ラプシン』『フルスタリョフ、車を!』『神々のたそがれ』 と
スクリーンで(←ここ一番大事)観ることをお薦めして感想を終わりにします。

(T)

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