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監督の前作『ふゆの獣』は、
とにかく後半の疾走感がすごかった。
「運動の映画」とでもいいたくなるような、
主人公が突如走り出すところからの躍動感が半端ない。
前半のボソボソした会話と鬱屈した空気は、
すべてこの後半の疾走シーンのためにだけ
用意されていたような。

この映画も、構造が似ている。
ただし、本作の後半の怒涛の展開は、前作以上だ。

3月11日以降、
放射能への反応の違いから、
周囲から孤立する女二人。
マンションの隣人同士だが、
すれ違ったときに挨拶する
くらいしか交流のなかった二人が、
ある事件をきっかけに魂を共鳴させ、
それぞれが自分の手で
人生を一歩進めようとする。

そのエンディングは、
ささやかな希望を観る者に与えてくれる。

あのとき、
確かに伝え聞いた情報によれば、
首都圏の空気はおかしかったと思う。

一月ほど後に東京から遊びに来た妹は、
「向こうは暗いし雰囲気がギスギスしていて嫌」
と言っていた。

東京のある友人は、
会社を休んで避難して来たが、
彼女に対する風当たりは強かった。
「自分たちは国のため?に一生懸命働いているのに、
自分だけ逃げるのか」
「非国民」。

そんな言葉すら出て来かねない様子だった。

でも、自分の命を守ろうとする彼女を
誰が責められるだろうか?

一方で、「自己責任」という
突き放した嫌な言葉が持て囃される世の中で。
何年か後に、彼女に、あるいは
生まれて来るかもしれない
彼女の子供に何かあっても、
派遣社員だからといって
食事手当にも差をつける会社が、
責任をとってくれるとは考えにくい。

政府広報を含め、
信頼できる情報が何かわからない中で、
個々人が早急に「命」に関わる(かもしれない)
レベルの決断を下さねばならない異常事態。
その不安は、本当に困っている
福島の被災者にも向けられる。
映画の中で、寺島進演じる被災地からきた男は、
福島ナンバーの車に乗っているという理由で
「帰れ」と悪意をぶつけられる。
大手報道機関の情報では大きく取り上げられなかった、
そんな重苦しい空気を、
この映画は前半で丁寧にあぶり出す。

主人公の一人、杉野希妃演じるサエコは
娘の幼稚園で、保育士に
被ばくを避けるために
外で遊ばせることをやめるよう懇願する。
そのことで、「恐怖心を煽るな」と
他の保護者の反感を買ってしまう。
しかし、他の保護者も、
それぞれ自分のしていることに
確信があるわけではない。

夫が電力会社社員で
福島に派遣されることになった女性は、
ことさら自分の不安を打ち消すかのように
サエコに文句を言う。
しかし、彼女が
酷い罵声を発すれば発するほど、
その孤独感が痛いほど伝わってくる。

この映画は、サエコが正しく、
その他の保護者が間違っているというような、
放射能の恐怖を伝える映画ではない。
ただただ、このような異常事態に右往左往する日本人
(そして、恐らく作者が意識したであろう「女性たち」)
を描く。

いてもたってもいられず、
街を走り回るサエコとユカコの姿が
それを象徴的に表している。

一方的に自分の意見を主張し合う女たち。
対話の欠如。
何も調整することのできない保育士。

これまでぬるま湯に浸かり、
真剣なコミュニケーションを
してこなかった者たちが、
切迫した状況になると
どれだけひどいことになるか、
を見せつけられる。

そんな状況の中で、ある事件
(命を守るために奔走していたはずが、
逆に命を奪う行動に出てしまうとは、
なんと非合理な!)
をきっかけに出会う二人。
家族も含め、心を通わせることのできる人が
誰もいない中で、病院から戻ったサエコに
ユカコが「母親なんだからしっかりしろ」
と叱咤激励するシーンに、
思わず涙があふれた。

こんな異常事態でも、
「人は誰かを救える」
ということを信じさせてくれるシーン。

絶望的な状況を提示して終わるのではなく、
陳腐な「絆」などという言葉で
お茶を濁すのでもなく、
かろうじて人が人を助け得る可能性を示す、
そのリアリティに心を揺さぶられる。

ひとつ気になった点を言えば、
この映画では男性の影が薄い。
過去にユカコを襲った
悲劇にまつわるエピソードを考えても、
「命を育てる者」としての
女性に焦点を当てているのはわかる。
しかし、出てくる女性は
みな若干エキセントリック。
そこに、ほんの少しの
悪意を感じてしまうのは私だけだろうか…
(サエコの夫なんてかなり酷く描かれてはいるのですが。
この映画を観た男性の意見も聞いてみたいです)

(S/N)

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