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「フィルムノワール」という
ジャンルに収めてしまうのは
少々もったいないこの作品。
青年マリクの成長譚という印象が濃い。
ただし、成長の場が刑務所なのだ。
そこは決して矯正施設などではなく、
命がけのサバイバルの場だった。

アラブ系移民で孤児で無学で…とくれば
刑務所に送られてきたマリクの過去は
自ずと想像される。
けれど、マリクには凶暴な印象はなく、
むしろ頼りなげで、あどけなさも残る19歳の青年だ。
それだけに後に彼が見せるおそるべき適応能力に
目をみはることになる。

移民政策に揺れるフランス社会の縮図そのままに
刑務所の中にも人種・宗教の対立があり、
マフィアの勢力争いがあり、
文字通り弱肉強食の閉じられた世界の中で
どこにも属さずに孤立して生き延びることは難しい。
服役早々マリクも暴力の洗礼を受け
そのことを思い知らされる。
シチリアマフィアのボス、セザールに命じられるまま
殺人に手を染めるマリク。

このとき殺されたアラブ人がその後たびたび
幻想となってマリクの前に現れるようになる。
普通ならそれは悪夢の形をとるはずだが
彼は時には啓示を与える存在となって
マリクと対峙する。
徹底してリアルな刑務所内部の描写の中で
この対話シーンは神秘的で詩的でさえある。

セザールの手先をつとめながらビジネスについて学び、
読み書きさえ覚束なかったフランス語の授業をうけ、
さらに独学でアラビア語、イタリア語まで
操るようになるマリク。
彼の学ぶこと、知ることへの欠乏状態が
どれだけ深刻であったかが伝わってくる。
水を吸うスポンジのようにあらゆることを吸収し
どんどん考える人の顔つきになってゆく。

帰る場所も待つ人もいない彼には
この闇の社会でのし上がる以外、
人生を切り拓く道はない。
けれど彼が求めているのは
いわゆる権力ではなく、
彼なりの「自由」であるように思える。
誰かに支配されない人間になるには
支配する側になるしかない。
だからこそ修羅場をくぐりぬけるたびに
何かから開放されたかのように
身軽になってゆくように見えるのではないだろうか。
それはまた一歩自由に近づいたことを意味するのだから。

セザールに面従腹背しながら
独自のビジネスにも手をひろげ、
マフィアの内部分裂を策略する
知恵と実行力を身につけたマリクは
したたかで精悍な男へと変貌をとげている。

ラストはサクセスストーリーらしい抜け感があって
こちらも救われたような気分になる。
けれどその明るさも、今度は彼が
引きずりおろされる側になったことを考えると
どこか不気味に感じられるのは私だけだろうか。

(ゴマ)

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